主婦から経営者へ。主婦新井恵理を駆り立てたもの
――まずは会社を立ち上げたきっかけを教えてください。
立ち上げ前に同業の仕事を3施設くらい経験して感じたのは、畑違いの経営者が多いということでした。利益優先にするあまり、スタッフのことを考えてくれないような。
そういう環境で働いた経験から、いっそ自分が経営した方がいい施設を作れるのではと考えたのがきっかけになります。
――2年目には早くも2つめの施設を開設されていますね。
1施設目の時に利用児にたくさん来てもらったので、この際2施設目も建てた方がいいんじゃないかと思って。
勢いに乗った感じですね(笑)
――勢いで2施設目をスタートさせて大丈夫でしたか(笑)
子どもに関しては問題なかったんですが、スタッフに関してはダメでした。(笑)人が少なく採用を急いでしまったので失敗しまして、二年目で崩れましたね。
そんな事があってスタッフは再編しました。現在の顔触れは立ち上げ当初とはガラッと変わっています。
――今までに挫折するような経験はあったんですか?
経営者としては若い方なので、周りから侮られるような事もありますね。安易に始めたんじゃないのか、と。
確かに勢いで始めた部分もありますが、安易な考えで立ち上げたわけではないですね。
――今おいくつでしたっけ?
33歳になります。起業したのは28歳の時です。(※インタビュー2023年9月時点)
周りの主婦で同じくらいの年齢で起業しているような知り合いなんていません。(笑)
でも自分は思い立ったら行動せずにいられないタイプなので。勢いで2施設目を建てれたのも、そのおかげでもありますが。
今は一転して守りに入ってしまっている自覚があります。だから再度攻めに転じるため、令和6年4月にさらに2事業拡大計画を立ててます。
――新井さんを駆り立てるものは何なのでしょう?
まずは社員の幸せの追及です。
私は保育園で働いたことがあるんですけど、その職場は楽しくなかったんです。働くのが苦しく感じたり、子どものことさえ嫌いになったり。そんな経験があるので、うちの社員さんには楽しく働いてほしいと願っています。
その楽しく働けるというのが大前提でもあり、さらにしっかりと暮らしていける職場を作るのが私の使命です。社員がプライベートを充実させられるくらいにはお給料を出してあげたい。
社員の生活を守ることは、自分の幸せを追及するよりも大事な事だと思っています。
福祉の仕事って、基本的に儲かるかどうかっていうものではなくって、利用児達が楽しく過ごせるかどうかというのが大事なんです。そして、働いてくれている人にも、楽しく働ける場所を提供できるかどうか。
2施設運営して、うまく回せているとは思っていますが、自分自身が進化していない。令和6年にあと2店福祉事業に着手し、福祉としての展開は一旦区切りをつけたいと考えています。次は新たなことができればいいなと考えていますね。
――新井さん自身が働こうと思ったきっかけや、モチベーションになっていることを教えて下さい。
やっぱり、自分の子どもを幸せにしたいと思ったことでしょうか。
――起業した当時、周囲からの反対はありませんでしたか?
もちろん反対されましたよ。起業したのは息子が7ヵ月の頃だったので。
普通だったら、母親として自分の子どもの事だけを考える時期かもしれませんね。
私はもともと家庭に入るという考え方が好きではなかったため、とにかく働きたいと思っていました。身体を動かすっていうのが好きで、結婚してからも様々な仕事をしたんです。
だから子どもを見ながら仕事ができれば全て解決するのでは、と考えたというのも理由の一つですね。
現在も働いてくれているメンバーの中には、初回からずっと来てくれている人もいて、その人のバックアップもありました。
スタッフから見た代表像。立ち上げを支えてくれて今がある
――新井さんのお話にも出た、創立当初からのメンバーのお一人でもある、スタッフiさんに話を伺います。人員に関することではプロフェッショナルと伺いました。そんな方から見た新井さんはどんな人ですか?
(スタッフi)明るくて、ユニークで、発想が他の人とはいい意味で違って、とても豊かな人です。
他の人の予想に反するような事でも率先して、「やってみたい!」と言うような。(笑)スタッフもそれについていくっていう形で今までやってきました。
若さとエネルギッシュのある若社長で、これからも期待しています。
――立ち上げからずっと勤めていらっしゃるんですよね。新井さんの事、好きですか?
(スタッフi)大好きです。
性格はおそらく真逆なんですけど。だからこそ、二人で一つの円ができるというか、お互いにカバーし合えるのかなと思っています。
――新井さんが困っているような時はありますか?また、そういう場合はどうしていますか?
(スタッフi)代表より私の方が年齢がかなり上な分、経験とか積み重ねたものはどうしても違いますね。時には娘のように感じる時もあるんです。
だから困っているなって感じる時は、娘を宥めるような感じでしょうか。
生い立ちから探る、価値観の基盤
――ここからはまた、新井さんにお話を伺います。自身のことを聞かせてください。どんな幼少期を過ごされましたか?
三姉妹の真ん中として生まれました。とても賑やかだったと思いますよ。(笑)
――お姉さんと妹さんはどんな方ですか?
姉は私とは全然違うタイプですね。毎日同じ場所、同じ時間に同じ仕事をするような。
私は自由なタイプなので、やりたい時に、やりたいことをやりたい。妹は割と私に似たタイプかな。
――お父様、お母様のどちらに似たと思いますか?
実はどちらとも似てないんです。(笑)親はあまり社交的ではないというか、静かなタイプ。
でもどちらかというと父親が似たタイプなのかな。家では静かですけども、例えば地域の集まりとか会長さんの家まで行って話をしてくる。外に行けば社交的に振舞えるんだと思います。
でも家の中では女に囲まれて男一人なので、とても静か。(笑)ちなみにすでに早期退職して、今は北海道にいます。
――経営をしていて、好きなことや優先順位の高いことを教えてください。
楽しく会話することですね。社員はもちろん、利用児も、保護者の方とも。誰かと話をすることが好きなんです。
施設にかかってくる電話は子どもに関する相談ごとが多いんですけど、そういう相談にアドバイスするのも好きです。施設を利用するまで至らなかったとしても、第一歩として、ご家族の中で解決できるものがあれば、それをお手伝いできればいいと思います。
――そういう事がストレスになる方もいると思うんですが。
自分はまったくストレスには感じませんね。
相談受ける物事すべて自分が子育てで経験しているかと言われると、経験してはいないことも多いですし、アドバイスしたことすべてがそのお子さんに当てはまるかはわかりません。それでも仕事の上での経験上も含めた話ですと合っていることも多いですし、喜ばれれば満たされます。合っていたと再確認もできる。
相談をきっかけに自分と繋がっていただき、施設を利用していただけた事もあります。さらにそこから5年間も利用していただいている方もいらっしゃいます。すでに他の施設に通っていたのに、相談をきっかけにうちの施設に変更していただいた方も。
話すことがきっかけで、その人をプラスの方向に変えることができるかもしれない。だから、話すことが好きなんです。
目指すミライへの原動力
――会社について聞かせてください。現在従業員は何名でしょうか。
パートさん含めて10名在籍しています。各施設で5名ずつです。
――令和6年4月に新たに始める2つの事業は、どのような事業になる予定でしょうか。
1つ目は生活介護。もう1施設は就労でAかBなんですが、どちらにするかはまだ固まっていないんです。
私の中ではその2つの事業で、放課後からスタートして大人の支援へ。沢山事業を広く拡大することが目標ではなく、繋がりと言うか、利用者様の人生においてのサポートみたいな感じですかね。
だから利用児たちが大人になって働く場所と、生活できる場所を提供したいなって。今後必要なことが出てきたらまた考えも変化するかもしれませんが、まずはそこを目標に考えています。
――計画性がすごいですね。まだ始まってないから当然なんですが、まだうまくいくかわからない。その状態でもどんどん予定を決められるところが。
振り返ったときに、この5年間何も行動できていなかったのが、自分の中でものすごく嫌だったんです。その分あえて自分を急かしているのかもしれません。そうでもしないと、今の2つの事業のみでこの先終わりそうで。
でも今回具体的に動けるようになったのは、ある利用児のご家族のご厚意がきっかけなんです。持っている土地に建物も建てた上で賃貸させていただけるという。
そんないい話をいただけたというのが大きいですね。もちろんきっかけがあっても動かない人が大半でしょうけども。
――新しく始める2事業は始めた何年後くらいに落ち着くイメージですか?
今の2施設をはじめて5年経った今現在安定していると感じるので、同じく5年後くらいに安定させるのが目標ですかね。
――その後、何かしたいこととかはありますか?漠然としたものでもいいので。
今のところはでっかく何かを始めたいというような目標はないです。
ただ、利用児の保護者から、グループホームを建ててほしいという要望はいただいています。新しい事業が落ち着いてみないとなんとも言えませんけど。
一回人員で失敗しているという不安材料を糧に良い人とめぐりあえる事業にしていきたいです。
――スタッフ採用についてどんなことを重要視していますか?
まずは私と話してもらって、どんな反応をするかを見ます。さらに子どもとのコミュニケーションを重視しています。
例えば保護者への対応とか、一人のコミュニメーション能力が原因で、社員全員の評価に繋がる可能性がある。それで会社の評価がどうなるかというより、頑張ってくれている他の社員が影響を受けるというのが申し訳ないので、最低限でも現在働いてくれているスタッフと同等なコミュニケーション能力は必須と考えています。
――コミュニケーション能力の次に重視するとしたら、どんな点でしょうか。
自分が話していて、笑顔が多い人の方が好印象に感じるので、保護者や利用児を安心させる面でも、笑顔が多かったり素敵な人でしょうか。
――新井さんも笑顔が多いですよね。では逆に、新井さんがスタッフに対して譲れない点はどんな事でしょうか。
嘘をつくことですね。
特にあからさまな嘘が嫌いです。例えば、仕事のミスを隠すために嘘をつくだとか。
やってしまった・起きてしまった事は仕方のないことで、嘘をついてまで発覚を遅らせたり、責任逃れをするのではなく、できるだけ早く原因や状況などを報告して相談してほしい。
自分は「逃げる」という事は絶対にしないので、余計にそう思います。
あとは惰性で物事を決断しなかったり、継続しなかったりすることもですね。例えばうちで働き続けるにしても、辞めるにしても、しっかりとした理念や理由があって欲しいと感じます。
――逃げないという姿勢は現実を受け止めるという側面もあると思いますが、その点はご自身が施設運営をする上でも大事にされてたんでしょうか。
そうですね。施設運営をしていると、困難に直面する場面は何度も経験します。それを一つ一つクリアしながら進んできたと自負しています。
それでも5年目にして振り返ってみれば、守りに入っている部分もあります。今、他の会社の経営者さん達と交流できる機会を持ててるので、余計にそう感じます。
だからこそ、今は前に進まなければならない時期だと強く感じています。
――新井さん自身、すでに現在進むべき方向を定められて進んでいると思いますが、もしも金銭や時間的な制限がなく、自由にチャレンジが可能だとしたら、どのような事をやりたいと思いますか?
離島に宿泊施設を建てたいですね。(笑)
あとは廃墟になっているところをなんらかの形で再建するとか。みんなが楽しくいれる場所を作るというのが、楽しそうだなって思います。身近なところでは伊勢崎にも、ここを綺麗にしたら使えるだろうなと思う場所がいっぱいあります。
――みんなに楽しくいてほしいんですね。
私が勝手に思っていることなんですが、自分が落ち込んで楽しくなければ、周りも楽しくないだろうなって。逆に私が楽しんでいれば、周りも楽しんでくれるくれるのではと。
だからこそ、まずは周りの人に楽しんでもらいたいなって思っているんです。