気軽に頼ってもらえる地域の工務店であり続ける
――現在は関東の仕事が増えているとお伺いしました。
はい。以前から都内でも仕事をさせてもらっていましたが、最近は関東圏内に留まらず、山梨の八ヶ岳の方からも。ありがたくも忙しくなってきました。
――何よりですね。そのような状況で、どのような点を会社の強みとしていきたいですか?
工務店の一番の売りはアフターフォローだと考えています。
大手のサービスにも保証はありますが、保証外の部分の対応は難しい場合もあります。
その点、工務店の場合は保証外だとしても「ちょっと見てほしい」というような希望も、気軽に駆けつけることができる。お客さんとの密着度が高いんです。地域性やお客様に応じた密着度の高い工務店らしいサービスを、いかにアットホームな状態で提供できるかが重要だと考えています。
――以前社長様にインタビューさせていただいた時に、地域や地元の人おかかえの工務店みたいなイメージで仕事をされていると伺いました。
サービスの範囲は広がっていますが、その精神は今も同じです。
会社のコンセプトとして、「電球一つから買いに行ける会社」という点を大事にしています。その地域密着度は変えないまま、エリアが広がる分、現在の工務店規模ではまかないきれない部分も出てくるので、そこが今後の事業拡大のキモになると思います。
――会社としては着実に受注件数も増え、社員もお若い方が増えてきているそうですが、今後の事業展開としてはどのような戦略を考えていますか?
ちょっとスケールが大きくなってしまいますが、私が目標に掲げているのが「街づくり」なんです。建物を作るだけに留まらず、住む人の健康に気を配り、安心して暮らせる街をつくっていけたらと思います。
工務店としての母体を固めつつ、福祉施設、幼稚園、老人ホームなどに展開を広げていきたい。あとは弊社の職人の体つきを見ていただけるとわかるかもしれませんが、フィットネスの分野にも事業を展開したいですね。街の住人の人生、そして健康や美しさのサポートを、街としてバックアップしていきたいです。
目指す街づくりのカタチと見えてきた問題点
――前橋という地域にもこだわりがありそうですね。
そうですね。私は高校こそ埼玉に出てしまいましたが、幼少期は前橋で育ちました。今でも友人や年上の方、ご老人も気軽にお話をさせてもらっていますが、みんな小さな頃から縁があった方なんです。そういう人たちに恩返しをしたいという想いが根底にあります。そこが前橋にこだわっているポイントですね。
――私は県外人なんですが、群馬の人は皆さん口を揃えて群馬はいいところだと言うことが多い。地元が好きな県民性だと感じます。
そうですね。私が思う群馬の良さというのは、いい意味で閉鎖的なところ。都会と違って、地域ごとに少し違った種類の温かさがあるところです。
例えば、私たちが小さい頃は、親の目の届かないところで子供が悪いことをすると、近所のおじちゃん、おばちゃんが叱ってくれました。地域みんなで子育てをするイメージですね。そういう田舎にありがちなところって、今ではあまり歓迎されてませんよね。でも自分はいい環境だったなと思うんです。
今あえて、そういう地域の絆が強い街をつくりたいと考えています。
――ある意味一周回って新しいというか、地域コミュニティを大事にした街という事ですね。どうしてそのような街づくりをしたいと思ったのでしょうか?
私は新卒でフィットネス業界に入り、その後は不動産業界に入りました。そこで建売住宅を売っていた時、先輩が現場に入って、職人を小馬鹿にしたことがあって。自分の家がそういう商売をしていたこともあり、それがすごく許せなかったんです。
休みに実家に帰ったときに、この仕事はとても良い仕事だとしみじみ思った。それが地元に戻ってきた一番の理由ですね。
戻って気づいたのは、この業界は高齢化と学歴社会によっていずれ淘汰されていく業界という不名誉なレッテルを貼られることが多い事。だから会社に帰ってまずやったことは、そこの誤解を解くために、自分から発信をすることでした。
もう一つ戻って気づいたことは、地方はどうしても老人が多くなってしまい、老人を支える側面ばかりが強くなってしまう。そのような地域は新たな発展をさせることは難しく、若者は暮らしづらくなって、どんどん外へ出て行ってしまうという悪循環に陥ってしまっている。そういう流れをなんとかしたいという想いが強くなりました。
だから、地域密着型の工務店として様々な発信を続けるとともに、若者が集まる地域づくりをサポートしたいと思うようになったんです。
――「街」というのは、どのくらいの規模の地域をイメージしていますか?
イメージしているのは、中学の学区くらいの範囲ですね。
幼稚園とかはちょっと離れた場所に行く場合もありますが、その後中学校くらいまでは地域から離れないことが多いと思うんです。だから、中学の学区くらいの範囲のイメージですね。高校になったら、やりたいことに応じて人が散らばっていくと思うので。
――そういう志を掲げて、知り合いや若い人たちが仲間として集まってきていると思いますが、それはどうしてだと思いますか?
難しいですね…。
昔から自分は、突拍子のないことを言い出すことは多かった。でも、一度こうと思ったことは、絶対に曲げなかったし時間がかかったとしても達成させてきました。
実際に、社員に同級生が2人いますが、自分の想いを伝えたことで入社してくれたので、自分の姿勢を評価してくれているのだと思います。
――ご兄弟の仲もいいと伺いましたが、なぜでしょうか?
自分たちとしては自然にふるまっているだけなんですが、理由の1つとして、お互いにリスペクトしあえる部分があるからじゃないかと思います。私はどうしても主観的になるのが苦手で、なんでも客観的に見て全体像を見渡したがる。弟はどちらかというと、先端が尖っているかのように突き進むことができる。姉は自分と似たところもあるんですが、もうちょっと感情主導で突破していく力を持っている。お互いにないものを持っているというのをずっと感じつつ、それぞれのいいところは盗みたいと思っています。
誰にとっても素敵な工務店にしたい。行動の信念とは
――社内の雰囲気についてお伺いします。外から見ると和気あいあいとしたフラットな雰囲気を感じるのですが、実際にはいかがですか?
私自身、トップダウンが嫌いなんです。どちらかというと、自身がいじられているくらいでいい。主役はあくまでも動いてくれている人たちで、自分はそれより少し下くらいの気持ちでいるので。
――工務店の仕事は3K(きつい、危険、汚い)みたいに言われるようなこともあったと思います。登坂工務店は、ここが他とは違う!というこだわりなどはありますか?
うちは社長が「現場は綺麗に、自分も綺麗に」と良く言っているんです。やっぱり風評被害的に悪く思われやすい部分は払拭したいです。
そうやって綺麗にすることはもちろん、もう一つは会社を構えるにあたって、社内の内装などは自分がかなりこだわって作っています。人にいいと思われない建物で仕事していては、工務店自体がいいと思ってもらえないですから。
いくらそういう点で世間のイメージとは違うと言っても、やっぱり現場を見れば、みんな汗と泥にまみれて仕事をしなければならない。でもスポーツも強くなろうと思えば、汗だくだったり泥だらけで打ち込むことってありますよね。
綺麗なだけではいられないのは、ガッツを持って一生懸命仕事に打ち込んでるからこそと言えるんじゃないかと思うんです。
外から見たら華やかな仕事とはとても言えないですけどね。
だからこそ、私は職人達のそういう事情も汲んだ上で、人柄だとか、温かさとかを発信していかなければと思っています。職人は仕事に打ち込む分、どうしても気難しいように見えてしまいますからね。今後の工務店としてはそういう点を重視していかなければと思っています。
――なぜそこまで仕事に打ち込めるんですか?
そもそも何かを追い続けるというのが好きなんです。
社長はよく、「遊びがあるから仕事がある」と言っていますが、自分はその先に「信念」があるから「仕事がある」と思っているんです。
信念が仕事の延長線上にあるのであれば、まずは仕事を優先的にするべきだと思っているので。
――ここで言う信念は先ほどの「街づくり」の事でしょうか。
そうですね。
そしてもう一つ根底にあるとすれば、人生の半分以上を仕事に費やすのだから、仕事が一番楽しいと思える方がいいと考えています。
――素晴らしいと思います。野球をされていたとのことですが、今の考えに関連していますか?
もちろんです。
キャプテンをずっとやってきたので、私の中の野球観は、人をまとめるということでもあったと思います。そしてメンバーのパフォーマンスをどのように上げられるか。また、礼節を重んじるスポーツであったので、そこで培った部分は大きいです。あとは何よりガッツだったり負けん気だったりも、野球から得た大きなものですね。
――野球の経験がかなり活きているんですね。ちなみに、仕事でも私生活でもいいのですが、今一番興味があることってなんですか?
仕事をしながらこの先の展望を考えて、逆算して、現在地を把握しようとしている時でしょうか。
――根っからの経営者ですね!
ええ。自分の目標に対して、今どうあるべきかを考えだすと勝手に時間が過ぎていきますね。めちゃめちゃワクワクします。
一言で表すのなら、会社の未来ビジョンにおける「道」を作っている感覚ですね。
登坂工務店が描く、街の将来像
――自分が社員や社長とお話をするなかで、よく使う言葉はありますか?
綺麗な言葉じゃないんですが、「どうにかなる」っていうフレーズが出ます。
仕事で案件の話をする中で、誰かが不安になったとき、背中を押すために使うので、言い換えれば、「どうにかする」と同義かもしれません。
また、強要しちゃうみたいに聞こえるかもしれませんが、「楽しければいいよ」ともよく言います。仕事でもプライベートでも、何か選択を迫られる時、どちらもプラスとマイナスの部分があって選びにくいときってあるじゃないですか。
そういう時に「じゃあどちらの方が楽しいのか?」っていう視点で選びます。楽しければいいんじゃないかって思いますね。
――なるほど。専務にとって楽しいこととは何でしょうか?
仕事をすること自体が自分にとっては楽しいので、仕事と言われればなんでも楽しくなっちゃうんですが、その中でも特に、描いたビジョンを自分に落とし込む時が一番楽しいですね。
――何年後にどういう状態になったら、今のご自身の展望が100%叶えられたことになるのでしょう?
私達が作った幼稚園や、人が集まるための施設、ジムなどの健康をサポートする場所を街のみんなが活用して、地域コミュニティが円滑になっている状態が一番良いですね。
あくまで誰かのためでありたいと考えています。
――最終的に御社の規模としては、どれくらいを目指していますか?
最終的に母体の工務店の規模としては20人くらいが良いですね。
他には外部の協力企業のような形で、保育園、福祉施設、飲食など、各所10人くらいずつの規模感でしょうか。
「登坂グループ」のような感じで。
知名度的には、工務店と言えば「登坂工務店」という状態を目指したい。
――御社のロゴマークに「益々登る」という意味合いが込められているというお話を伺いました。とても良いと思います。
ありがとうございます。このロゴは先代の頃からのもので、ロゴマークだけは変えないと言われてきました。
私もその考えを継いで、ずっと使っていきたいですし、名前の如く、文字のごとく、益々登っていく登坂工務店を具現化できればいいと思っています。
――自分の今のビジョンがあって、それをみんなで登って、「街づくり」を完成させる。その時に、誰とその景色を共有したいと思いますか?
そのコミュニティに属する全員とですね。
例えば街を歩く子供やおじいちゃんおばあちゃんと挨拶をするだけでも、話題が生まれたり、活力が生まれたりしますよね。そんなふうに活気あふれる街の景色を、地域の人と共有したいです。
そして後世にも、今のコミュニティがどんなビションから生まれたのか、どういうことを成し遂げてきたから今があるんだということを伝えたい。自分も家庭を持つ身ですから、自分の子供にも伝えていきたいですね。
――仕事狂いなだけじゃないんだよということですね(笑)
仕事狂いというのは間違いないと思うんですけど(笑)。
でも、会社としても街としても、存続するということが一番のポイントじゃないかと思います。何事も、後を継ぐ人がいないと存続できないじゃないですか。街づくりが完成したとき、自分の子供には、さらに未来の街づくりについて今の自分と同じ目線で話ができるようになってもらいたいですね。